これで感傷にひたらないとしたら、世の中に哀しみなんてものはどこにも存在しないってことだろう。

「雨まで降るとは、ね……」

 病み上がりの俺にどこまでも厳しいお天道様。

 そりゃぁもう何年もさい銭を渡してやしないけど、さ。

 愛車がなけりゃ突っ走って少しでも身体が冷えないようにするのだけれど、こいつを置き去りにするなんてことはできない。

 極上のベンツをたかがパンクくらいで乗り捨てていけるかい?

 俺にとっちゃそれと同じだ。

「今なら泣いても誰にもわかりゃしないだろうな」

 かといってここで泣くのはなんだか悔しい気もするんで俺は“だだ漏れ”する鼻水と一緒にしょっぱいそいつをぐっ、とこらえる。

 思考回路をちょいと切り替えりゃ、ここまでどん底に突き落とされれば後はもう怖いものなんてないんじゃなかろうかという気になってくる。

 そうさ、悲劇のヒーローを気取るにはまだ早い。