と、まゆみはくるりと振り返って、

「もぅいいの。いらないから探さなくていい」

 にっこりと笑みを浮かべて確認を取るかのように、念を押すかのように告げ、

「じゃね」

 からんからん、と店の入り口に取り付けられたブリキのベルを揺らしながら店を後にした。


──なんだ、この違和感は。


 なにかがおかしかった。

 なぜだろう?

 すべて丸く収まって、いつも通りの関係にもどって、ただ“四葉”がやっぱりいらないといわれただけのことなはずだった。

 これは、いつもの彼女の気まぐれだろう?

 なのにこの違和感はなんなのだ? 

 わけがわからないんじゃない。

“明らかに”嫌な予感がしている。

 彼女の態度は『拒絶』ではなかったし『怒り』も特には感じられない。

 むしろ“何も感じない”ことを感じた。

 それは風もなく、波ひとつ、波紋ひとつ起きていない、ただひたすら平面な水面によく似ている。

 なにも起こっていないのだからなにも不安に思う必要などないはずだろう? 

 けれども、どうしても、間違いなく、不安が俺のこころを急速に満たしていく。

 俺だけが、俺の水面を小刻みにふるわせていた。