客足が弱まる頃。

 それはつまりタイムリミットがやってきたということだ。

「じゃぁマスター、わたしあがりますね」

「おぅ、おつかれさん」

 軽くマスターと言葉を交わしたまゆみは俺の前をすっ、と通り過ぎて休憩室に入っていく。


──まずい……。


 だらり、と冷や汗が俺の額から溢れ流れる。


──まずい……まずいぞ。


 気ばかりがあせって彼女を引き止める言葉がまったく浮かばない。


──まずい……まずい、まずい! まずい!!

 とにかく急がなければならない。

 しかしどれだけ脳みそをかき回してもなにひとつ頭の中に台本は出てきやしない。

 早くなんとか昨日のフォローをしなければ。

 どうしたっていうんだ、俺は。