幸せの天秤

お互いに何も言葉を交わさず、裕太くんの家に向かった。

部屋に入るなり、唇を重ねる。

優しいキスなのに、脳が麻痺していく。

あたしたちは欲望のままに身体を重ねた。




目が覚めた頃には、外は少し明るくなっていた。

隣を見ると、穏やかな寝息が聞こえる。

無性に触れたくなり、ソッと手を伸ばす。

男の癖に柔らかい髪。

今までは何も感じなかったが、綺麗な顔立ちをしている。

細いと思って居た身体も、脱いで見ると程よく筋肉も付いている。


あたしが知らない裕太くんがそこにはいた。



いつも、あお以外の人と体を重ねた後、あお思い出しては胸が苦しくなった。

けど、裕太くんと体を重ねた今、あたしの中に後悔なんてない。



少しずつ、あたしは進めているのかもしれない。

それはきっと、裕太くんのお陰だ。

彼があたしの知らなかった世界を教えてくれたから。




「ありがとう」


彼にはきっとあたしの声は聞こえない。

それでも、言いたかった。