「なにしてんだよ、ハム子」
そんな怒りを含んだ声を出したのは、私の手をひいた緒方くんだった。
逃げ出したのに、追いつかれてしまった。
私は思わずうつむいてしまう。
泣き顔を、隠すように。
「……陸じゃん。久しぶり」
翼と呼ばれた男の人は、ふっと笑いながらそう言った。
「……なんで翼がここにいるんだよ」
「ちょっと、その人に用があってね」
そう言って私の方を見る。
えっと…。
ふたりは知り合い?
状況がつかめずにいる私と、険悪なふたりの沈黙が続く。
緒方くんが私を抱きしめてくれているため、ひとつの傘に緒方くんと私が入っていた。
雨の音だけが響く。
「翼!?」
そこに、緒方くんを追いかけてきた雅先輩もやって来た。
雅先輩が来ただけで、私はなんだか怖くなって、ビクッとしてしまう。
「……そういことか」
なにかを悟ったように、翼と呼ばれた人が、
私を見て小さな声でそう言ったのを、聞き逃さなかった。


