……立ち上がる気力さえない。
そう思ってたとき。
「……おい」
ぶっきらぼうな声が聞こえて、思わず顔を上げた。
……見た瞬間、驚いてしまう。
びっくりしてしまうくらい、かっこいい男の人。
そう。
風を引いた入学式の日から、緒方くんって人を待っていた私が、理想を夢描いていた人。
かっこよくて、黒髪で、凛としているような男の人。
そんな人と、恋ができたら。
なんて、楽しい想像していた。
その〝そんな人〟が今、目の前にいて……。
驚かずになんていられなかった。
「かっこいい……」
雨がかき消してしまいそうなほど、小さな声でそうつぶやく。
その人は、一瞬だけ顔をしかめた。
そして、
「……お前、あのときの猫缶女…?」
はっとしたような顔をして、そう言っていた。
……今、私のことを猫缶女って言った?