彼がヤンデレになるまで



「他人の――害悪の言葉なんか、蚊が飛ぶのと同じだ。苛つきはするけど、怒るなんてことはないし。苛つくと同時に撃ち殺すのに……」


撃てない右手は、既に銃から離れた。


「お前、何なんだ」


「あなたが助けた女ですよ」


カルツが立ち上がる。そうして、ベッドへ腰かけた。


キングサイズのベッドだ。端に座られても距離はある。カルツは“猫”を見ずに、座っていた。


『空っぽの背中』と“猫”は思う。


何となく、隣に座ってみた。


「……」


「……」


「……」


「……、触れたくないのでは」


「鳥肌立ってるけど、止めたくない」


頭を撫でるカルツは、あくまでも“猫”を見ない。


頭を垂れ、何かを思案しているようだった。