彼女の家のインターフォンを鳴らすころには、あのソプラノの声も冷たい手もどこかに消えていた。
最初から、どこにもなかった。
「平良くん、いつもありがとうね」
線香のにおいが漂う和室で横から聞こえた声に閉じていた瞼を開ける。
去年と変わらない笑顔の彼女がそこにいる。
長方形の写真になって。
「いえ、こちらこそ毎年すみません。干し梅片手に何年も」
「いいのよ。あの子が唯一好きだったものだから。変わった子よね、本当に…」
振り向いた先の彼女の母親にお辞儀をしながら話す。
彼女が年を取ったらこんな感じだろうと思えるほどそっくりな彼女の母親は、あの破天荒をどうやって産んだのかと不思議に思うほど静かな人だ。
「…それは、否めませんね」
「やだわ、平良くんったら」



