スッと、涙が頬を伝うのがわかった。

私、まだ全然立ち直ってないんだな……

他人事のようにそう思い、流れる涙をそのままにして、ぼんやりしていた。


しばらくすると玄関の鍵が開く音がしたので、私は目元をごしごしと拭って、健吾さんを出迎えに行く。



「おかえりなさ――」



リビングの扉を開けると、視界が急に真っ赤な色で埋まった。

驚いて何度もまばたきをしていると、甘くて優雅な花の香りが私の周りに漂っていることに気が付いた。


「バラ……?」


私が呟くと、かさりと花束のフィルムが擦れた音がして、健吾さんがはにかんだようにその影から顔を出す。


「そう。ほら、今日はバレンタインだから」


そして私の手に、一体何十本のバラで作られているんだろうという大きな花束を渡した。


バレンタイン……? 

私ははっとしてカレンダーの方に目をやる。

そういえば、今日は二月十四日だったんだ……!


「ごめんなさい! 私、何も用意してなくて……今から何か作りましょうか!」


とはいってもチョコレートの買い置きなんてなかったはず。

簡単なケーキくらいしかできないかもしれないけど……


「気にしないでいいよ。女性が男性にチョコを贈るってのは日本独特の風習で、こっちではこうして男から大切な女性に何か贈るものなんだから」

「でも……」