最近健吾さんの帰宅が遅いのは、その準備に追われているからなのだという。

二人でただ形式的に済ませるだけの式なのに、どうしてそんなに準備が必要なんだろう……

そう思っても、本人にその疑問をぶつける勇気はなく、私はほとんどのことを彼任せにしていた。


唯一同行したのは衣装合わせで、綺麗なウエディングドレスには少し心が躍ったけれど、試着した自分の姿が映る鏡越しに健吾さんと目が合った時……


『よく似合ってる』


そう、嬉しそうに言われてしまうと、私は複雑な思いになり急にドレスのサイズが体に合わなくなった気になるのだった。



「今日も遅いな……」



セリちゃんと一緒に英語の勉強をして、眠くなった彼女が自分の部屋に帰っていくと私は広いリビングのソファに深く腰を沈めた。


明日自分が結婚するだなんて、どうしても思えない。

それはまだ籍を入れていないからとかじゃなくて、健吾さんと夫婦になる覚悟が全くできていないからだ。


日本を離れれば大丈夫と、いつか彼は言っていたけど……

ただ麦くんを思い出す回数が減っただけで、健吾さんに急に惹かれるとか、そんなことにはならなかった。


「麦くん……か」


久しぶりにその名前を声に出した。

すると自然に彼の顔がまぶたの裏に浮かぶ。


それは別れる直前の苦しそうな顔ではなくて、いつも私を癒してくれた、あの優しい笑顔。


――大好きだった。本当に。