八時を過ぎてから、緒方さんに連絡するために携帯の電源を入れた。

昨夜の着信は、全部麦くんからだった。

思わずかけ直したくなったけど、ボタンを押そうとした私の脳裏に浮かんだのは、大胆に肌を露出した歩未さんの勝ち誇ったような表情。


……もしかしたら、彼女が別れを言い渡すように仕向けた電話かもしれない。


そうでなくてもきっと歩未さんは昨日あの部屋に泊まったはず……

だったら彼らが一緒に居る時に電話を掛けたってことになる。留守電も入ってないし、からかい目的……?


麦くんはそんなことをする人じゃないと、本当はわかっているのに。

たった一晩で愛されている実感を失った私は、見えない彼の心を勝手にネガティブな方向へと解釈してしまう。


……考えてたらきりがない。とりあえず緒方さんに電話を……

私は考えを断ち切るように、携帯を耳に当てた。


『――もしもし、なずなちゃん?』

「おはようございます……あの、実は」


熱があって……と言おうとしたのに、聞きなれた緒方さんの声がなんだか胸に沁みて、私は泣き出してしまった。


『ちょっと、どうしたの!? 何かあった?』


緒方さんの慌てた声が耳元で聞こえる。


「ごめんな、さ……っ」

『いいから、何があったのか教えてちょうだい!』


前の彼氏と別れたときも、緒方さんはこんな風に優しかった。

姉のように、母のように、親友のように、いつも私を気にかけてくれて……だから私も本当のことを話さなきゃだめだよね……


携帯を握り直し、一度鼻を啜ってから私は震える声で言った。



「わ、たし……麦くんに、ふられ、ちゃった……」