どうしてそういうことになっているのか、俺には全く理解できなかった。

だからって緒方さんを問い詰めても仕方がないから、とにかくなずなさんの家に向かおうと思った。


扉が壊れそうな程勢いよく店を飛び出し、寒空の中を俺は走った。

刺すように冷たい風は心地良かったけれど、今徳永さんがなずなさんの家に居るのかと思うと背中をいやな汗が伝った。


どうして俺が振った、なんて誤解が生まれたんだろう。

どうしてなずなさんは一言も、俺に相談してくれないんだろう。


俺は年下だから、頼りないのかな……

今まで二人で過ごした時間に歳の差なんてなかったと思うのに。

少なくとも俺は、なずなさんを年上だからどうのと思ったことはないのに。


一緒に、同じ分量の幸せを感じていたと思っていたのは俺の方だけだったのかな。

だとしたら、俺、すごい馬鹿だ……


はあ、と息をついて見上げれば、なずなさんのアパートが目の前にある。

俺の記憶が正しければ、なずなさんの住んでる部屋は今明かりが点いている二階の角部屋だ。


あそこに、徳永さんも……?

あの人なら、風邪だとか俺に振られたとか、そういう弱みに付け込んですぐなずなさんに迫りそうだ……


頭に浮かんだ嫌な想像を消し去るように首を大きく横に振り、俺は意を決して階段を上がり始めた。


――俺はなずなさんを信じてる。

これから誤解を解いて、そしてクリスマスには二人で楽しい時間を過ごすんだ。


玄関のチャイムを押して扉が開くまでの間ずっと、俺は自分にそう言い聞かせていた。