運転手さんはオーナーの言葉に従い、車を発進させてしまった。
今日……厄日?
私が何をしたって言うの……?
極力オーナーの方を向きたくない私は、まだ降りやまない雪を窓越しに見る。
「家はどこ?」
「……今日は家には帰りません」
「ああ、彼氏の所か」
「そうです、さっきの誤解解かなきゃならないんで。運転手さん、そこ右です」
「……今回はまたすごい怒りようだな」
私の不機嫌な態度を、オーナーがそう言って笑う。
怒るに決まってるじゃない……!
彼が意外に娘思いだったことも、少しだけくつろいだ時間を過ごしたことも、今ではどうでもいいくらい、怒りの分量の方が勝っている。
「次の角を左で……ええと、あそこに見える可愛い建物の前で……」
「へえ。あのマンションか。なかなかいいセンスしてるんだな」
「当たり前です。彼は素敵な雑貨デザイナーなんですから!」
こんな風に麦くんを自慢するのは初めてだ。
いや、自慢と言うか、ただオーナーに対して当てつけたいだけだったりもするんだけど……
マンションの前で車が停まると、私はオーナーがお財布を出す前に運転手さんにぴったりお金を払い、さっさと車を降りようとした。
なのに……
オーナーは私の持っていた荷物のうちの一つ……麦くんのために選んだ腕時計の袋を掴んで、私が車から降りられないようにした。

