アロマな君に恋をして


歩未さんは絶対に、麦くんに今のことを報告するだろう。

それを聞いたら彼はどう思う?

ただの疑惑じゃなく、手を繋いでいる現場を見られて、当事者から“フィアンセ”だなんて単語まで飛び出して……


いくら優しい麦くんにだって、許せないことだよね。私を疑うよね……

ああ……彼になんて説明したらいいんだろう……



「――小泉さん。乗って」



気が付くと、私たちの目の前には一台のタクシーが扉を開けて停まっていた。


「……いいです。お先にどうぞ」

「この天気で傘も持たない女性より先に帰る男がいると思うか?」

「…………」


そういう気遣いはできるくせに、どうして簡単にあんな嘘がつけるの?

オーナーの道徳心はよくわからない。


でも、それなら遠慮なく先に帰らせてもらおう……ううん、帰るんじゃなくて、麦くんのところへ行こう。

わかってもらえなくても、説明しなきゃ。

こんなことで彼と壊れたくない。


私は体に積もった雪を払い、無表情で車内に乗り込む。

すると、次のタクシーに乗るのだとばかり思っていたのに、オーナーが冷たい外気を連れ
込みながら、私の隣に腰を下ろした。


「ちょっと……なんで同じタクシーに!」

「あの混み方見ただろ? 次はいつになるかわからない」

「じゃあ私歩いて帰ります!」

「ダメだ、風邪を引く。運転手さん、出して」