アロマな君に恋をして


びっくりしたのは歩未さんだけではない。

私は全く身に覚えのない嘘を吐いたオーナーの顔を、信じられないという表情で見つめる。


何を言ってるの……? 冗談でも言っていいことと悪いことがある。

少なくとも歩未さんはきっと……今のを真実だと思ってしまっている。

しばらく強張った表情をしていた彼女だったけど、やがて何かがふっと緩んだように微笑み、こう言った。


「そうだったんですか。麦とは別れちゃったんですねー、知らなかった。雪の中お引止めしてすみません、失礼します。――お幸せに」

「待って、違っ……!!」


私の声は歩未さんには届かなかった。

お幸せに――の言葉に祝福の心は一切入ってなかったように思う。

最後に彼女の唇が描いた真っ赤な三日月が怖かった。


そして降り積もる雪の冷たさと対照的に、ふつふつと沸き上がるのは……オーナーへの激しい怒り。


「どうして……あんな嘘……」


そう言って未だ握られたままの手を振り払うと、彼はあっさり手を離し、白い息とともに言葉を吐き出す。


「……さっき、きみが僕の気持ちを疑ってただろ? だから証明しようと思ったんだ。僕は手段を選んでいる余裕もないほど、きみに惹かれているのだと」

「だからって……!」


大きな声を出したら涙が滲んできてしまった。

この人の前で泣くのは、なんか悔しい……

私はうつむいて、雪で濡れたブーツのつま先を見つめる。