通りかかるタクシーにはそのすべてにお客さんが乗っていて、さらには道路も混雑している。
このまま待っていてもいつ乗れるのかわからない感じだった。
さすがのオーナーも、打つ手なしなのか深いため息をつく。
「さて、どうするか……」
「どうするにしても、この手は早く離していただきたいんですけど」
「まだ駄目だ、冷たいから」
歩道の真ん中でそんな会話をする私たちの前で、一人の女性が立ち止まった。
黒のロングブーツから覗く太腿は、この寒いのに素肌。
見てるこっちが寒くなる……なんて余計なことを思いながら徐々に視線を上げていくと、そこにいたのはいつか見たことのある真っ赤な唇の彼女だった。
「……こんにちは」
彼女……麦くんの女友達の歩未さんは、無愛想に挨拶をしてきた。
その目は私の顔でなく、私とオーナーのちょうど間くらいを凝視している。
そこになにが……? ――――あ。
「あ、歩未さん! 違うの、これは……」
「その方は……?」
歩未さんは私を無視して、淡々とした口調でそう問いかける。
「この人は、私の勤め先の――「彼女の、フィアンセです」」

