数日後、私は小さな洋食屋さんで麦くんとランチを楽しんでいた。

前より少し距離の縮んだ私と麦くんは、仕事の日でも休憩の時間を合わせて一緒にランチを取ることを始めたのだ。


麦くんの働く雑貨屋さんの、あの恐い顔の店長がおススメしているというクリームコロッケが本当に美味しくて、一口ごとに私が感嘆の声を上げていた時だった。


「――そういえば、オーナーに会った時にカフェの話はしたんですか?」


先に食事を終え、ホットコーヒーに口をつけていた麦くんが言った。

そういえば、麦くんに話すのを忘れていた。

今では緒方さんともすっかりその話をしなくなったし、オーナーもあれきり店を訪れて来ないから、頭からすっぽり抜け落ちていたらしい。


「うん……したよ」


それだけ言って、私はお皿に残ったクレソンをフォークでつついた。

詳細を話すのはなんとなく嫌だった。麦くんが客観的に、私の選択をどう思うのかを聞くのが怖いんだと思う。


「……できないって言われちゃったんですか?」


心配そうな麦くんの声を聞いて思う。

……そういうことにしておいてもいいかな。


だって私、オーナーにあの話を聞いたときよりもずっと、麦くんと離れることが考えられなくなってる。

イギリスなんて、行きたくない。

私がそう思ってる限り、カフェの話は実現しないのだから。