――
「記憶喪失からなる人格障害で、真人間になる事例があるんですね」
火の玉が飛び交う廊下で言えば、彼は苦笑した。
「失礼な上に、今ここで言うべきことじゃないと思うんだけど……」
右側から、ぶわあと飛び出す幽霊をシカトしつつ、話を進めた。
「自分の名前、覚えてますか」
「……克己(かつき)」
「名前覚えているなら、生きるにおいて支障ありませんね」
吊るされた人形がケタケタ言うものだから、彼――克己が聞きやすいよう声を大きくした。
「名前だけで生きていけるんだ?」
「自分さえいれば、生きていけますよ」
「俺は、季沙名もいなきゃ嫌だな」
「凄いですね。私に鳥肌を立たせるなんて」
怪物のオブジェが奇怪な音を出しても立たないというのに。


