With a smile

トゥルルル・・、トゥルルル・・。

まただ。

まだ始めて15分ほどしか経ってないのに、建都さんの携帯が鳴るのはもう3回目。

書類を見ているフリをして、つい耳を澄ましてしまう。

大きくて聞き取りやすい、少しキリっとして、大人っぽくなる声。

仕事の用件が終わると、必ず少しの世間話で親しそうに笑っている。

笑い声が聞こえると、我慢できなくなって何度も盗み見をした。

明るくて眩しい笑顔に、心地良い笑い声。

はい、はいと頷く度に、笑う度に、携帯のストラップが揺れてシルバーの光を振りまいた。

一見女の子っぽい繊細な曲線の『H』、イニシャルじゃないから建都さんの好きなブランドの物なのかな?

私も欲しいなー、・・・って何言ってんの。

スッパリ諦めるって決めたばっかなのに。

早く終わらせて営業に出てってもらわなきゃ、集中、集中。

・・・でも電話が鳴るたびに私の集中力は一気に吹き飛ぶ。

ダメ、ダメ、集中、集中・・・。