With a smile

もしかして、絶好のチャンス逃した?

さっき雷さえ鳴らなかったら、無理にセッティングなんかしなくても、2人を自然に同じテーブルに着かせる事が出来た。

何にも知らない顔して声を掛けて、雨宿りにとか何とか言ってここに呼べたんだ。

ううん、今だってやろうと思えば携帯で呼べる。

今ならまだぎりぎりチャンスは逃していない。

だけど今、私は、「雨嫌いじゃないよ」って言う建都さんに「私も」なんてほほ笑みながら返してる。

気付かれなくて良かった、とさえ思っていた。

カイさんの顔、それが私を躊躇させ、建都さんにカイさんの事を伝えられずにいる。

こっちを見ていた数秒間、整った無表情な顔の中で目だけが悲しそうに見えた。

建都さんへの怒りや憎しみなんかじゃなくて、深い悲しみの目。

私が目を閉じる一瞬前、その目が少し揺れた、様な気がする。

嫌い、なんかじゃないのかもしれない。

深いブルーの目が頭から消えないまま、冷めてすっかりしぼんでしまったスフレをひたすら口に運んだ。