赤ずきんは狼と恋に落ちる




身を固くし、呼吸もあまりしないようにする。


彼らが座っているのは、私の斜め後ろの席だ。
幸いにも、彼から私は見えないらしい。



少しだけ安心すると、彼女がやたら高い声で彼と喋っているのが聴こえてきた。



「私たち、もう半年付き合ってるんだよ?結構長くなったよねー」

「まぁな。俺が前のと付き合ってた頃からも入るし、もうそんなに経つのか」



聴きたくない内容を、こんなに近くで聴くのは、こんなにも辛いのか。

「半年」と、「前のと」。


彼にとっては、どうでもいいことなのかもしれない。

だけど、私はそうではなかったのだ。




気を落ち着かせようと、コーヒーを一口飲む。




それでも、彼らの話し声は、私の耳をつんざいていく。




「前のとって……酷いなぁ、晴太は。佐々木さんに悪いじゃない」

「お前も同じだろ?俺らが付き合ってたの知ってて、誘って寝たんだから」

「何の話かなー?」





初めて知った事実。

やっぱり、聴きたくなかった。