まだかな……?
チラリと小ぶりの腕時計を覗いてみたり、電話をしようかと迷って開けたり閉めたり。
「こういうのが重たいってやつなのか」と、沈んで考えてしまい、甘いはずのコーヒーがやけに苦々しく感じてくる。
きっと、信号にたくさん引っかかってしまったのだろうと、ひとまず私を落ち着かせる。
ショートケーキの苺にフォークを刺した、その時だった。
ちりんちりん、と小さな鈴の音が聴こえる。
千景さん?
少し体を傾け、ドアの方を見る。
……あ、
ドアの前に立っている男性の姿を見た瞬間。
フォークが、可愛らしい苺をぐちゃりと潰してしまった。
何て、タイミングが悪いんだろう。
体を小さく丸め、僅かに震え出した左手を、右手でしっかりと押さえる。
そんな危機的状況の私にはお構いなく、
「あ、晴太。あそこ空いてる」
と、隣の女性が高い声を上げていた。
……悪いにも、程がある。
ドアの前に立って、嬉しそうな声で答えているのは、
紛れもなく、私の元彼だった。


