ずっと下を向いてばかりの私。
ただひたすらエレベーターが10階に到着するのを待つばかり。
「りこさん?」
身体を少し傾かせて、私の顔を覗き込む宇佐城さん。
「……っ、何でしょうか?!」
「いや、もう10階着きましたよ……って」
目だけ上を向かせると、確かに10の文字が赤色に点滅している。
「さっきからぼーっとしてるんで、どうしたのかと思いました」
さっきから「ふらふらしている」だの、「ぼーっとしている」だの、間抜けな私しか見られていないような気がする。
こんな私に連れて来られた宇佐城さんの方が、よっぽど不安だ。
「すみません!今すぐ部屋見てきます!」
近所の人に迷惑になる、と思いつつも、宇佐城さんに顔を見られたくなくて、猛ダッシュする。
鍵を回し、ガチャリと小さな音が響く。
玄関には、地味なパンプス一つだけ。
いつもは必ず1枚は落ちているはずのチラシも、今日だけは何故か1枚もない。
昨夜、自分がやったことが少しずつ、少しずつ思い出されていく。
そうだ、確か私昨日の夜に……。
埃っぽくない短い廊下に違和感を感じながら、リビングのドアを開ける。
……そうか、片付けてしまったんだった。
リビング、ソファー、テーブル、キッチン、その他各所がきちんと片付いてしまっている。
洗濯物がまだぶら下がっているベランダを除けば、整理整頓が出来ていて、私のだらしなさはどこへ行ったのかと思うほど。
そういえば、昨日振られた理由を考えに考えた結果、自分がだらしなかったという結論に至って……。
こんなにしてしまったんだった。
「りこさん、お邪魔してもいいですか?」
こんなに暗いなか、男の人であれ待たせるなんてあまりにも可哀想だし、失礼だ。
でも、断る理由なんてどこにもないし……。
何か上手く言い訳出来ないかと考える。
……のは、もう止めにしよう。
宇佐城さんが住むとか住まないとか、この際後で決めればいいんだし。
「宇佐城さん、どうぞこちらへ……」
玄関のドアをそっと開け、来客用スリッパを出し、腰を低く低くしながら、リビングへと案内した。


