バーに着くと、聴き慣れたベルの音と同時に、見慣れた千景さんの顔が目に入る。 「おかえり、弘也。遅かったけど、何してたん……、え?りこさん?」 千景さんが私に気付いた瞬間、今までずっと繋いでいた手をパッと離される。 弘也と呼ばれた彼は、千景さんの肩を掴み、奥へと連れていく。 きっと、私が自分から言わないからだろう。 気を遣わせてしまって、自分の申し訳なさと、不甲斐なさを痛感させられる。 奥からは何も聴こえない。 その方が私にとっては有難い。 私はまた黙って、自分の足元を見つめた。