だから私は、
彼に感謝の言葉を言うぐらいしか出来ない。
「ありがとうございます」
さっきよりも、はっきりと言えた。
彼にもちゃんと聴こえたのか、ピタリと足が止まる。
「今度から、気を付けます。
それと、この前煎れてくれたコーヒー、美味しかったです」
この1ヶ月間、彼に言いたかったこと。
こんなタイミングで言うつもりはなかったんだけど、これも何かの運。
彼は一度だけ振り向き、私の両目を右の袖で覆い、やや乱暴気味に左右へ動かす。
「俺の前で泣かないでくれないかな?
……そんなに優しく、慰めたり出来ないし」
ごしごしと拭われるなか、私は首を縦にコクリと頷く。
もう、十分だ。
こんなに優しくしてもらっているんだもの。
私には、十分すぎる。


