「島上さん、酔ってるんですか?」
「俺、さっき1杯も飲んでないって言ったよ?」
そうでしたね……。
今日の午後、散々私に「大人しい」だの不釣合いに近い言葉を浴びせたのに。
同期にも後輩にも人気のある彼が、私と一緒に抜け出して、何がしたいのだろうか。
「大変なことになってしまった」と思うも、後悔は先には立ってくれない。
諦めかけたところに、メールのバイブ音が鳴る。
彼にも聴こえたのか、スルリと手を離す。
「すみません」と一言だけ断り、パカッと携帯を開けると、渡部さんからのメールだった。
『2人ともいつ抜けたの~?びっくりしちゃった!
何もされてない?!
島上は送り狼だから気を付けてね!!』
渡部さん、ものすごく感謝したいけど、もうちょっと早くメールが欲しかった……!
パタン、と携帯を閉じると、島上さんと目が合ってしまう。
「あ…ははは……。皆、心配してるそうですよ……」
頬の筋肉が引きつっているとしか思われないほど、酷い作り笑い。
「大丈夫でしょ」
彼は笑顔で応えると、また右手を取って歩き出す。
「島上さん!どこ行くんですか?!」
「ん?ホテル」
「ええっ?!」
「嘘。俺の家」
ホテルよりも質が悪い。
「ちょっと…、待ってください……っ!島上さん、やっぱり酔ってるんじゃな……」
言い終わらないうちに、自分の背中に何かがぶつかった。
目の前には、やたら至近距離にある、島上さんの顔。
「さっきも言ったでしょ?
……俺、1杯も飲んでないって」


