赤ずきんは狼と恋に落ちる




遅くならないように、真っ直ぐ帰ろう。




そんなことを言った私が、今はとても恨めしい。




――あれから4時間半が経過。


今日に限って仕事が多く、結局始めたのは7時からで。


チラリと時計を見ると、針は11の文字のところでピタリと止まっている。



視線をテーブルに戻すと、大きな笑い声と、その倍以上くらい大きな島上さんの声が、再度耳に響き始める。




「だーかーらー!俺は振られてないの!俺が!振ったの!!」



どうやら彼は、誤解を解くのに必死なようだ。


別れる度に根も葉もない噂を立てられるのは、不愉快だし、何より疲れてしまう。




「お気の毒に」と内心思いつつ、私はウーロン茶を一口飲む。






「佐々木さん、隣いい?」



声をかけてきた島上さんは、とても疲れた顔をしていて、笑顔が妙にぎこちない。



「大丈夫ですか?」

「んー……。まぁ、大丈夫。俺まだ一口も飲んでないし」



酔ってもないのに、あのテンションの高さ。


私に4分の1ほど分けて欲しい。




「佐々木さんはずっとここで座ってるけど、楽しんでる?」

「ええ。私は聞いているだけで十分ですし」



正直に言うと、あのテンションについていけない気もするし、場を白けさせてしまいそうだからだ。




「ね、今からちょっと抜けない?」

「え……?」