「会いたかった……」
耳に直接伝わる声に、身体がびくりと震える。
バスタオルで包まれるように抱きしめられ、顔だけでなく、身体全体が熱くなる。
「い、いつ、帰ってきたんですか……?」
「私も会いたかった」と、素直に言えない自分が歯がゆかった。
「今日の夕方。6時くらい」
「ここに、何時くらいから居たんですか?」
「んー……。8時くらいからやろうか」
あんな大雨が降っているのに。
千景さんは、3時間近く待っていたのか。
「雨、降ってるのに……。別に、今日じゃなくても良かったんじゃないですか?」
「怒ってる?ごめんな。でも、どうしても今日会いたかった」
もう、耐えられなかった。
「千景さん……っ!」
くるっと振り返って、背中に腕を思い切り伸ばす。
嗚咽を漏らしながら、私も負けじとぎゅうっと抱きしめた。
「私だって、会いたかったです!……ずっと、何て言おうか、考えてたのにっ……。千景さん、千景さんっ」
止まらない涙と嗚咽を、千景さんが全部受け止めてくれる。
温かくて、優しくて、それがまた苦しかった。
「また、どっか、行くの……?」
しゃくり上げながら訊く私の背中をぽんぽんと叩きながら、千景さんは答えてくれた。
「もう全部済んだ。ちょっと時間がかかりすぎたんやけどなあ。でも、ちゃんと終わらせた。だから、もうどこにも行かへん」
「……本当に?」
「ほんとに」
ゆっくりと事情を話してくれる千景さん。
その間、私は「うん、うん」としか言えなかった。
円満、とまでは言えないけれど、良い方向へ話は進んだようだ。
千景さんはまた商社マンに戻り、お兄さんの手助けをしていると言った。
「俺の仕事の話はこれで終わりや。こっからが本題」
そう言って柔らかく笑うと、私の両頬をふわっと挟み込んだ。


