明るい茶髪の髪を掻き上げ、じっとこちらを見る彼。
「ねぇ」
「はいっ?」
「何飲みたい?」
「え……?」
突然の言葉に、きょとんとする私とは対照的に、不機嫌そうな彼は、「もういい」とだけ言う。
「ここ座って」
機嫌を損ねた子供のように、口を尖らせながらも、目の前にあるカウンター席を指差す。
「ありがとう、ございます……」
余計なことを言って、彼の機嫌を損ねないように、お礼だけ言って、素直に従う。
「何飲みたい?……って言っても、俺、コーヒーぐらいしか上手く出来ないけど」
淡々と、コーヒー豆を挽き始める彼。
ふんわりとコーヒーの香りが、広がっていく。
「アンタ、よくこの店に来るの?」
「ええ、まぁ……」
頻繁に、ほどではないけれど。
会社で色々あった時は、絶対と言っていいほど、来ているものだ。
「ここ、落ち着くんです。
余計な見栄は張っちゃうんですけど、固くならなくていいので」
「言ってみれば、アンタの逃げ場所みたいなもんなんだ」
「そうですね」
言い方こそ刺々しいが、彼が言った言葉は正しい。
逃げることばかり考えているけど、私にだって、心安らぐ場所は欲しいのだ。
「はい、どうぞ」
コトリと置かれたコーヒーは、何か落ち着く感じがあって。
「いただきます」
一口啜ると、何だかホッとした。
「アンタも色々と大変なんだね」
はあっと、息を一つ吐くと、彼は正面の椅子に座る。
「ここ、そんなに落ち着くなら、逃げ場所にしていいよ」
彼は、笑顔も見せず、言葉だけを落としていく。
「ありがとうございます」
私の笑顔なんて見ても癒されないけれど。
彼への感謝を込めて、少しだけ、笑ってお礼を言った。


