3秒間。
押し付けた唇は、いつもしているキスよりも、柔らかくて。
目を閉じたその3秒間は、永遠なんだと確かめるようだった。
名残惜しさを残しながら唇を離すと、視線を感じた。
起こしてしまった後ろめたさを含んで、そちらの方をじっと見る。
「りこ……」
熱っぽい視線を身体いっぱいに注がれているような錯覚。
くらくらして、ぎゅっと目を瞑った途端、あっという間に私の唇は奪われてしまった。
私がしたような、ちょこんと押し付けるようなキスではなく、吐息さえ奪われるようなキス。
それがもう出来なくなると思うと、胸が痛くて、寂しくて、愛しかった。
頬に触れる手も、
髪を流れる指先も、
濡れた唇も、
全部、全部私だけに向けられたもの。
千景さんは、私の目尻に溜まった涙を親指で拭うと、身体ごと引き寄せた。
「それ、見た……?」
こくっと大きく頷くと、顔が見れないように抱きすくめられてしまった。
「……行って来てください」
やっと絞り出した声は、か細かった。
「今日、病院で、千景さんが話しているのを、聞いちゃったんです……。
ごめんなさい……」
「……全部聞いた?」
「はい……」
千景さんは、ふっと息を吐くと、自嘲気味に笑った。
「情けないやろ?
こんなに、離したくないのに……。
心のどこかで、りこは許してくれるんやないかなんて、甘いこと、考えてたんや」
幻滅してくれと言わんばかりに、千景さんは自分を責め続けた。
「最初にこの家に来る前、俺がどう思いながらりこに話しかけたか、知らんよなぁ?
店で寝泊まりするのがきつくて、良い所ないか探してた時に、泣いてるりこを見つけて、近付いた。
居候させてもらえた時は単純にラッキーやと思ってたんやけど、
りこの不器用なとことか、弱そうなのにシャンとしてるとことか、優しいとことか、もう……気付いたら、どうしようもなく好きになってた」
潤んだ目で見つめられ、また唇を重ねる。
目を閉じると、最初に会った夜の千景さんの優しい笑顔が浮かんだ。


