心のもやは晴れないまま、1週間が過ぎた。
相変わらず、千景さんは電話を気にし、私はぎこちなく笑って当たり障りのないことを言うだけ。
千景さんも、私の様子がおかしいことを薄々気付いているような素振りを見せる。
そんな時に限って、苦しそうに「ごめんな。ちょっと待っとって」と顔を歪めさせて言う。
「いつまで?」と訊き返したい気持ちを抑えつつ、「大丈夫ですよ」と応える私。
こんな苦しそうなのに、私が我侭言っちゃダメだ。
自分の気持ちを奥へ奥へ追いやると、千景さんが時計を見、ドアの方へ向かう。
「行ってらっしゃい」
「なるべく早く帰ってくるからな」
また外へ出ていく千景さんに手を振った後、洗濯物をたたみ始めた。
千景さんのズボンを手に取ると、コロンとポケットから小さな物が落ちた。
小さな蝶々が付いた、女物のストラップ。
根付けの部分が壊れている。
千景さんのストラップじゃないことは明らかだ。
じゃあ、これは誰の?
思い当たる節といえば、ずっと気になっている電話の相手。
何回か耳にした、「ユキノさん」という人なのか。
やっぱり、会っているんだ。
手の中にあるストラップをもう一度見つめ、ズボンの中へ戻す。
どんな人なんだろう。
何で千景さんと会っているんだろう。
何で頻繁に電話しているんだろう。
疑いたくないのに、どうしても悪い方向へと考えてしまう。
浮気じゃない、と言葉にした途端に不安に飲まれてしまう。
「嫌……」
勝手に妄想して、泣く。
どうしようもないな、私。
手の甲で乱暴に涙を拭うと、ズボンをたたんでさっさと仕舞う。
気になる割には、見て悲しくなるなんて。
馬鹿みたい。


