「俺、妬いてたんやで?」
あっ、と顔を上げたと同時に、唇を奪われる。
顎を優しく撫でられ、思わず首をすくめると、クッと上に向かせられ深く口付けられる。
あの時みたいに食べられているような感覚が広がり、止めようと押しても無駄だった。
「あっ、千景、さん……?」
一旦解放された唇で名前を呼ぶと、ぎゅうっと抱きすくめられた。
「悪い人やないとは分かっとるんよ。でも、隣にいるのがずるいと思ってしまうわ……」
背中に回された腕が少しだけ緩むと、ふわりとキスを落とす。
さっきとは違って、落ち着いていて、幾分オトナな感じがするのは、気のせいじゃないだろう。
「千景さん、面白がってたくせに」
「だって、りこが取材って……。舞い上がるのは許してくれへん?」
首筋から鎖骨にかけてゆっくりと唇が這わされる。
ずるいのは、千景さんの方じゃない。
こんなことされて、許さないはずがないのを分かってやっている。
まだ上までボタンを留めていないシャツの隙間から冷たい手がすっと入ってくる。
「や、千景さん……っ!まだ、仕事中、」
焦らすように下着を撫で、ちょうどワインが零れたところに一瞬の痛みが走る。
痛みの後にやってくるのは、じわじわと昂ぶらせてくるような快感。
「あんまり声出すと、聴こえるで?ここ壁薄いし。
あの二人には聞かせといた方が好都合やけど」
「……帰ってからじゃ、ダメ、ですか?」
弄られてすっかり息が上がってしまっている。
本当は早く、千景さんに触ってほしい。
言えないもどかしさを隠すように、目を瞑って顔を背ける。
「それ、誘ってんの?」
ぴたりと動きを止め、ほっとするのも一瞬。
「痛っ……!あっ」
拘束が解かれた後に目にしたのは、胸元にくっきりと映えている赤いキスマーク。
「ええよ。中途半端なのが一番嫌いやし。続きは帰ってからな?」
優しい手つきでボタンを上まで留めると、「行こ」と手を引いて部屋から出る。
顔が熱い。
この頬の熱さや表情で、バレてしまうかも。
緩んだ表情を取り繕う間もなく、部屋を後にする。
千景さんの手に引かれた私の左手。
何とも言えない恥ずかしさやら嬉しさやら悔しさを込めて、思い切り握りしめた。


