島上さんそれ以上はもう……!
訊かれてもいない私がただびくびくし、千景さんがどう答えるのか、じっと見つめる。
目の前に私が居るから、答え辛いかな……。
「いますよ。とっても可愛いです」
千景さんはにっこりと穏やかに笑い、空っぽの島上さんのグラスにワインを注ぐ。
「幸せそうでいいなぁ。ね、佐々木さん」
「そうですね……。あはは」
「島上さんもいるんでしょう?」
「いやいや、それがですね……」
くだけた感じで話す二人に構わず、また隠れて息を吐く。
島上さんも、まさか千景さんの彼女が私だとは思わないだろう。
彼が気付く前に、どうにか話を逸らさないといけない。
……そうは思っているんだけども。
「とっても可愛いです」。
さっきの言葉が反芻して、なかなか良い話題が出てこない。
あれは美辞麗句なのか、本心なのか。
後者だったら、と思うと、もう目の前の千景さんを見れない。
勘の良い島上さんにバレないよう、膝の上で握り拳を震わせる。
嬉しい、だけど今喜んじゃダメ。
喜ぶなら、自分の部屋で。
どうせ後少しで仕事も終わるんだから。
我慢しろ、私。
何度も何度も「落ち着け」と唱え、肩で息をつくと、赤ワインが入ったグラスを目の前に出された。
「佐々木さんもどうぞ。新しく入ったんです」
「あ、ありがとうございます……」
どぎまぎしながらも、有難く赤ワインを頂く。
まだ手元が震えている。
早く落ち着かなきゃ。
ゆらゆらと揺れる赤ワインから目が離せず、両手で細いグラスをそっと持つ。
ようやく一口飲もうと口元にグラスを運んだ時――。
「佐々木さんもいそうですよね、
彼氏」
バチャンッ。


