千景さんがおすすめやら女性に人気のリキュールやらの説明をしてくれているのに、メモをとる手は震えて動かない。
まともに顔を見れない。
思っていたよりも恥ずかしい。
「……佐々木さん?」
「はい?!」
「女性に一番人気のメニューもあるんですがどうですかと……」
「お願いします!」
妙に緊張している私を見ているからだろうか、千景さんは何となく楽しそうな顔をしている。
格好悪すぎる……。
真っ白のままのメモ帳に、さっき聞きとった「リキュール」、「20~30代の女性に人気」とだけ書いておく。
ここには仕事に来たのに、さっきから私ばかりあたふたして、まともに取材しなくて。
はぁ、と溜め息を一つついて席に座り、ぼんやりとメニューを見る。
あれ?
「メニュー、変わったんですか?」
「ええ。最近友人がよく来て食事も出来るようにしろと言うので」
そう言って困ったように笑う千景さん。
料理上手だから、このままレストランにしちゃっても問題はないと思う。
最近になって人気が出るようになったのは、料理もおいしいからかな。
そういえば記事にも「おいしい料理」って載ってあったような気もする。
随分私が来ないうちに変わったものだと思っていると、千景さんは、「ちょっと待ってて下さいね」と笑顔を見せ、裏へ行ってしまった。
やっぱり、かっこいいなぁ……。
ちゃんとお店のことも、店長の千景さんのことも記事に書かなきゃと意気込んでいると。
「宇佐城さんかっこいいなー……。ね、佐々木さん?」
「え?!ああ……。はい、そうですね……」
「さっき『取材があるので』ってお客さんに断ってた時に訊いたんだけど、やっぱり来る女性客は宇佐城さん目当てみたいだよ?そうだよなぁ」


