……どうしよう。
もう逃げられない。
まさか、千景さんのお店だと思わなくて、何も言わずに来てしまった。
しかも、仕事相手とはいえ男性同伴で。
「今回取材に参りました。椎葉社の島上陸です。……ほら、佐々木さん。名刺名刺!」
「あ、すみません!ええと、今回こちらの雑誌に載せていただきます。えー……っと、記者の、佐々木りこです。よろしくお願いします……」
名刺を差し出す手が震える。
千景さんだって、何が楽しくて、今一緒に暮らしている彼女の名刺を受取らなきゃいけないんだろう。
やっぱり、事前に調べて千景さんに伝えておくべきだった……!
千景さんは、指で押し潰れた名刺をスッと取り、こちらを見て、
「宇佐城千景です。こちらこそよろしくお願いします」
と、にっこり笑った。
怒ってない……?
ほっとしたのも束の間、島上さんは既に千景さんや店内の様子を撮っていた。
私も今は真面目に仕事しなきゃ。
写真を撮り終えた千景さんを捕まえると、早速質問を始めた。
「う、宇佐城さん!あの、こちらのお店のおすすめやどういった年齢層の方に人気なのか……、え?」
見上げると、クスクスと笑っている千景さんがいっぱいに映る。
私何か可笑しなこと訊いたのかな?!
瞬時に冷や汗が流れると、千景さんはふっと息を吐いて言った。
「いや、ごめんなさい。すごく、頑張ってるなと思って」
気恥ずかしくなって思わず後ずさる。
そんな私を、千景さんはいつも以上に優しい目で見てくる。
今そんなこと言われると……。
本当に、集中出来ない……!!


