赤ずきんは狼と恋に落ちる







「あー、ここだ。合ってるよね?」

「はい……」





クリスマスに降る雨は、こんなに鬱々としたものなのか。

今からの仕事に、あまり良い予感はしない。




「エトランゼ……。あ、看板も出てる……」




見間違えなんかしない、大事な大事な場所。


どんなに暗かろうと絶対に分かる。



ここは紛れもなく、千景さんのお店だ。



これはクリスマスプレゼントとして受け取っていいものなのか、それとも、私に与えられた何かの試練なのか。

どっちにしろ、今回は遠慮したいものだ。


恨めしく看板を見つめる。

私が来た時、こんな看板は置いていなかったはずだ。


まぁ、私が何も見ずにドアを開けて入っただけかもしれないけれど。



「佐々木さん、濡れるから早く入ろ?」


そう言ってドアを開けて先に私を入れてくれた島上さん。

レディファーストなんて、このタイミングでは必要ない。



中に入った瞬間に、お酒のボトルを3本持った芳垣さんと目が合った。



「ど……どうも、こんばんは……」


頭を下げた直後に、島上さんがドアを閉めた。


「こんばんは……っ、あ!俺会ったことあるかも!」



余計なこと言わないで島上さん……!


どうこの場を切り抜けるかを考えるのに必死な私をじっと見ると、芳垣さんは溜め息混じりにこう言った。


「取材があるってのは聞いてたけど。アンタのとこだったんだ。店長に言った?」

「言ってないです……」


開始早々痛いところを突かれた。

何かもうめげそう。



「佐々木さん、もしかして彼と付き合ってるとか?あっ!だから結婚詐欺とか変な噂……」

「はぁ?何でまた彼がついて来てんの?まだアンタのこと諦めてなかったの?すごいねぇ」

「付き合ってるだなんてそんな!違います、あの、彼とはちょっとした知り合いでして……!」

「そんなに慌てることないじゃん。分かりやすいなぁ、佐々木さんは」



微妙に話がずれている。

島上さんって、こんなに話が通じにくい人だったっけ?!


狼狽える私を余所に、芳垣さんは芳垣さんで怪訝そうな顔をしているし、島上さんは島上さんで一人で笑って納得している。




「弘也、そんな所で話さないで、お客様をこちらに座らせなさい。……えっ?!」



ばっちり目が合った。

帰りたい。