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水曜日の午後7時。
消えてしまいそうな小雨が降るクリスマス。
会社から歩いて5分の駅までのんびり歩いていると、白い息を吐いて待っている島上さんを見つけた。
「島上さん、待たせてすみません!」
慌てて傘を閉じながら駆け寄ると、島上さんはまた爽やかに笑って首を振る。
「いいよいいよ。それよりコピー間に合った?帰る前に頼まれてたやつ」
「あ、はい。間に合いました」
「良かった。じゃあ行こうか」
フッと笑うと、白く広がる空気。
今年一番の冷え込みだと、天気予報で聞いた。
自分のことよりも相手のことをすぐに気遣う彼に、何て言えばいいんだろう。
「寒そうです……」
「俺?あー……心が寒いかも」
またそんなこと言って。
「島上さんならすぐに素敵な人見つかりますよ」
顔良し、性格良し、正社員だからそれなりの経済力もあるし。
それにこの思いやり。
自分がモテることを自覚しているだろうけど、そうだからといって、ここまで自然に行動できない。
「ならさ、佐々木さんがなってくれるの?」
「それは無理です」
「ほらね」
島上さんみたいな完璧な人、私にはとても勿体ない。
それに私にはもう、勿体なさすぎるほど素敵な人がいるんだから。
「あっ、もうすぐ電車来るみたい!佐々木さん、走るよ!」
カップルが寄り添いながら歩いていく駅の中。
クリスマスの夜に、大の大人二人で取材に走っていった。


