赤ずきんは狼と恋に落ちる






島上さんのやたら意味深な言葉が引っ掛かりながらも、今日の分の仕事も終わり、定時に会社を出ることが出来た。



インターホンを1回鳴らすと、珍しくすぐに千景さんが開けてくれた。




「おかえり。りこ」

「ただいま。……今日は早いんですね」




千景さんはコートを羽織っている。

いつもなら6時過ぎくらいにのんびりと出るのに、今日は少し急いでいるみたいだ。



「クリスマス前は忙しいんよ。早めに開店せなあかんし、お客さんも多くなるんや。バタバタするからちょっと顔合わせられんかも」

「忙しいんですね……」



今週から来週にかけては、千景さんと会う時間があまりないんだ。


寂しいけど、仕方がない。

千景さんの仕事なんだから。




「風邪、ひかないようにしてくださいね。行ってらっしゃい」




寂しい、って言いたいけど、ここで言っちゃダメだ。


無理に笑って言うと、急に顎を掴まれて唇を塞がられた。



パッと離れると、少し不服そうに私を見た。




「寂しいとか早く帰って来いとか言ってもええんよ」



やっぱり無理に取り繕ってもばれちゃうんだ。


そんな所に1つ1つ優しさが込められていて、ちゃんと分かってくれているんだと安心する。



「お仕事なんで仕方ないですけど……。寂しいので、なるべく早く…帰って来てくださいね」

「分かった。行ってきます」



小さなリップ音と共に唇を離され、ドアがパタンと閉まる。



クリスマス、千景さんと一緒に過ごせないのか……。




どこかに行きたいなんて贅沢は言わないけれど、隣に居たかったな。





そういえば。



「お店の名前、訊きそびれちゃった……」