赤ずきんは狼と恋に落ちる






「そっかぁ……。あー、なら良かった。それなら良いんだ。安心した」

「はぁ……」



逆に不安になったのはこっちだけど。



仏頂面の私とは対照的に、心底ほっとした顔を見せる島上さん。



でも、そこまで心配してくれたんだ。

やっぱり良い人。




「だよね。こんな真面目な佐々木さんが結婚詐欺に何か引っ掛からないよね。ごめんね、こんなこと訊いて」

「いえ、平気です」



この噂を流した人が誰なのかはもう知っているけれど、ここまで尾ひれを付けたのは誰なのか。


……問い詰めるなんて勇気、ある訳ないけど。



「佐々木さんさ、捕まえておかないとふらっとどっかに行っちゃいそうだから」

「え?」



ふらふらしてるってこと?

25歳でこんな姿はもうダメってこと?




「そんなに私……ふらふらしてますか……?」

「違う違う!何て言うのかな……。誰か傍に居ないと……消えてしまいそうで、何となく怖い、だけ……」



歯切れの悪い島上さんを見ると、何故か申し訳ない気持ちになる。

私、大丈夫なんだけど……。



「そんなことないですよ。ちゃんと地に足ついてますから!」



無理に明るく振舞ってしまい、変に笑ってしまった。

また可哀想とか不憫とか思われるかも。



「聞いて安心した!失礼なこと言って本当にごめん!でもそんなデマ流すなんてひどいよなー」

「ですよねー」



多分この人は、そんなふうに見ない。

優しくって、ちゃんと見てくれている。




「じゃあ、戻りましょうか」

「そうだね」



冷めたコーヒーを飲み干すと、「佐々木さん」とまた呼びかけられる。



「はい?」

「まだ俺にもチャンスはあるって、思っててもいい?」

「え……」

「じゃあね」



最後の最後に、爽やかだけど、どこか妖しげにも見える笑みを残して、島上さんは先に行ってしまった。


何も答えることが出来ずに、私はただ彼の後姿だけを見つめた。