「そんなこと気にしなくっていいのに!でも俺突っ走っちゃう時があるからさ、その時は止めてね?」
爽やかな笑みをこちらに浮かべ、コーヒーを飲み干す島上さん。
私もぺこりと頭を下げ、一口飲んだ。
「じゃあお互い確認したし、私はこれで……」
まだ温い缶コーヒーを持ち、戻ろうとすると――。
「あ、佐々木さん!ちょっと待って!」
後ろから島上さんに呼び止められた。
まだ何か決めてないことがあったかな。
「あのさ……。本当はこんなこと訊くのと思うんだけどさ……」
一度躊躇うように言葉を詰める島上さんに、首を傾げる私。
あんなに饒舌な彼でも、訊きにくいことって……。
ああ、もしかして。
「またか」と思いつつも、彼の言葉を待つ。
別にこんなこと訊かれたって、気にしない。
ちょっと面倒なだけ。
気にしない、気にしない……。
「結婚詐欺にあってるって本当?」
は……?
結婚詐欺……?
「今朝から誰と話してもその話題ばっかりで……。佐々木さん、それ、本当なの?騙されてない?大丈夫?」
「ちょっ、ちょっと待ってください!私、結婚詐欺なんかにあってませんよ!」
一体誰がそんな大層な尾ひれを付けてくれたのか。
そもそも、キスを見られただけでどうして結婚詐欺にまで話が飛躍するのか。
私が逆に訊きたい。
「島上さん、何て内容の話を聞いたんですか……?」
「佐々木さんが結婚詐欺にあってるって……」
「あってないです」
「若い男にたぶらかされてるっていうのは……?」
「全然。そんなことないです」
「本当に?」
「島上さんに嘘ついて何になるんですか」
こちらが訊きたいことや、何でそこまでデマが流れているのか、色々と詰問してやりたいけれど、島上さんはただ聞いて心配してくれただけだ。
彼は何も悪くない。
それにしても、ちょっと千景さんと居るところを見られただけで結婚詐欺と言われるなんて……。
悲しくなるな……。


