「りこさん、」
後ろから、沈黙を破る千景さんの声がする。
「はい、」
小さく答えた声は、涙声で。
これですぐにバレてしまった。
「りこさん、こっち向いてくれん?」
ごめんなさい、それは無理です。
こんな声で言えるはずもなく、ただ首を横に振った。
「りこさん。
……抱きしめたいから、こっち、向いて?」
聞き間違いかと思われるような、嬉しい言葉。
それでも、もうこんな情けない泣き顔は見られたくない。
「そんなの、無理です……っ」
そんな風に優しくされると、
余計に嬉しくなって、
辛くなる。
パタパタッと軽い音が、ソファーに消えていく。
幾度も零し、吸い込んでしまったソファーには、大きな染みが、じっと私を見ていた。
後ろからは、小さな溜め息が聴こえた。
ああ、やっぱり呆れられている。
コクリと唾を飲み、目を閉じた時。
「もう、無理やわ……」
小さい息と共に、背中にふわりと温かい重みを感じる。
それと同時に、伸びてきた両腕によって、より近く、より温かくなる。
「そないこと言われたら、我慢出来へんやろ……」
項に伝わる微熱が、耳にまで伝わっていく。
初めて聴く、千景さんの低くて切ない声。
私を抱きしめている腕の力が、きゅっ、と少しだけ強くなる。
「りこさん、
………大好き」


