いろいろなものがある部屋の中だけど――ただ、鏡がない。

だからこの時、僕はどんな顔で先生に訊ねていたのかもわからなかったし、先生から向けられていた、なにかをあわれむような表情の理由も、わからなかった。

仲代先生は、夏輝を諭した時のように、僕を真っ正面から見つめる。

「多重人格を治すことは難しく、とても時間がかかるものなんです。

でも、それ以前に――ほかの人格のことを、まずは認めることから始めてください。お姉さんはもちろん、弟さんも妹さんもね。

多重人格で現れたほかの人格は、なにも『病原菌』じゃないんです。お姉さんの中にいる、言葉通り、もうひとりのお姉さんです」