きぃ、と椅子を鳴かせながら、彼女は僕らに続ける。

「多重人格になる条件は、だいたいは心への過負荷です。精神的に追いつめられた時、『身代わり』として別の人間を表に立てて逃れた結果が、多重人格障害の実際なの」

そして、まるですぐそばに助手がいるような手つきで――デスクの上から一枚の紙を手にした。

それは、患者の近況を知りたいということで、診察前に先生が姉貴に書かせたアンケートだ。

紙面の上から下まで、じっくりと吟味した仲代先生は、

「ふうん……なるほど」

ひとりだけ小さく呟いて、納得のいった表情でコックリコックリ何度かうなずいた。