僕は片手で、大急ぎ車椅子の上のジュースが入った袋達を退かし、代わりに姉貴をそこに座らせた。

特別体を鍛える趣味のない僕には、ギリギリの作業だった。

「……ん」

座った途端、姉貴のまぶたがふるると震え――開いた。

澄んだ真っ黒な瞳が、スイと上がって、僕の顔を捉える。

(あ――よかった)

どうしてとは断然として言えないけど、ただ、もうその瞳は、姉貴だった。

榊原秋乃だった。

僕や夏輝の知る、姉貴だった。

なんだか一瞬の嵐に遭遇し、それから逃れたような気分になった僕は、ホッと一息、

「ねえ、冬弥。ここ、どこ?」

「……」

ついて、そしてすぐ、戸惑う彼女の言葉に、凍らせられた。