僕は、背中のところに、『榊原秋乃』とシールの貼られた車椅子のグリップをしっかりと掴む――

いや、捕まえた。

ああ……僕が、このグリップを握るようになってもう、五日になる。

僕は溜め息をついた。

「あーったく、姉貴、出掛ける時は教えてくれって言ったろ? なにかあったらどうすんだよ」

「……うん、ごめん」

「まあ別に、謝んなくってもいいけどさ。――んで? 今日はどこ行きたいんだよ?」

靴のかかとを履き直してから訊くと、姉貴は特有の、ふんわりと風が撫でていくような声音で答えた。