「ま、まだ広田が家にいんだろ? 俺ヤだよ……!」

「それならダイジョブよ、おっ返してやったから。もう、そんなことより」

もうしばらくに浸っていたかったのに、彼女はせかせかと歩き出す。

「さっさと戻らないと、夏輝やデンちゃんがケーキ全部食べちゃうでしょ。私あれ、食べないで来たんだから」

「……」

それは全て、ひょっとして僕のために?

そう訊きたかったけど……訊かないことにした。

現金な僕は、もう満足していたのだ。彼女と数分でも、互いのぬくもりを確かめ合えたことで。

本当、表してみればたったそれだけなのに、はは、本当になんて現金なんだ、僕は。

「それじゃ走るか?」

と訊くと、真乃はまた突然歩調を、ゆるめた。

「んー、いいわ。もうちょっとアナタといる。急ぐけどゆっくり帰りましょ」

そこには、僕の大好きな笑顔がまた、鮮やかに咲いていた。