「私は秋乃さんの中に生まれたでしょ。ちゃんと自分の経歴を持ってるのに、世の中にはそんな痕跡はない。私が今まで築いてきたような居場所もない。それってすごく、さびしくて、寒いの」

「……」

今度は言っている意味がなんとなく解かって、それでも、ただ頷くことしか出来なかった。それ以外に、今の僕には、ひとつも動くことが許されない気さえした。

いや、それだけを彼女が求めているように感じた。

なにか引っ張られる感覚がして、ふと見やればそれは、真乃が僕の袖を小さく掴んでいるのだった。

「ねえ、聞いてよ冬弥―――私、怖いのよ」

(怖い?)

「今日聞いたでしょ。秋乃さんの治療、上手くいってるわ。でもそれって、ただでさえ自分の居場所がない私が消えていく……そういうことなの。

―――自分が消えるのよ、そのうち、何事もなかったようにさ。秋乃さんがよくなるのはいいと思うわ、ほんと……でも、私まだ、消えたくなんか……」

今日、診察室で真乃が言った言葉が蘇った。

―――だってさ―――

あの言葉が、まさか、私は消えるんだってさ―――という意味だったのなら。