オレンジ色にして

「簡単よ」

と、僕の返答を待たず、またさっきと同じ言葉で、真乃が口を開いた。

「私は、私の居場所に来ただけ。本当にそれだけよ」

「お前の……」

それは、この小川のことだろうか。彼女が自ら終点と言ったここのことだろうか。だとしたら、それは、僕を追ってきたのとは違うような……

「居場、所?」

「うん、そ。私の数少ない、私だけの居場所。―――アナタがいるとこね」
「お……俺が―――?」

僕は見上げた。

彼女は、見下ろしていた。

視線が宙で、ゆっくりそれが平行になっていく。

真乃が、僕の横にそっと腰を下ろした。

「冬弥、想像したことある?」

と、彼女が質問を続ける。

「自分の居場所がないってこと、どこに行っても自分のがないってこと」

「……」

「想像したこと、ある?」

自分の居場所?
自分の痕跡?

―――そりゃあたしかに、僕だって自分の居場所がほしくて家事や手伝いを始めた。

だから、質問の意味は解かったのだけど―――彼女の意図が解からなくて、いや、ほんの少し解かる程度で安易に答えちゃいけないと思って、首を横に振った。

でしょうね、と彼女がとてもさみしそうに、薄っすら、弱い笑みを見せる。