オレンジ色にして

僕は、溜め息混じりに立ち上がった、

「～ったく、タルト崩すって、どんだけ力入れる気―――」

その時、耳の端に、車のエンジン音を。しかも、すぐそこで止まった。思わず、玄関のほうをするように目を向ける。

この辺りはいわゆる、『閑静な住宅街』って言っても過言じゃない。

だから車自体さして通るほうじゃないし、ましてや、この辺でいったん路上に停車してからに入れる家はない。

僕の得ているご近所付き合いの情報じゃ、真向かいのデンさんは車を持ってないし、はバス通勤だし、左隣はが単身で、奥さんが出かける時は自転車だし、デンさんの家の両隣には、車はあるけどほとんど使われてない。

車庫の中でブルーシートを掛けられているのを見るくらいだ。

どうしてこんなに反応するのかというと、実は、その聞こえたエンジン音に、聞き覚えがあった。お湯がしたか、それともまだ九十度台か、八十度台かを、ヤカンから出るの音だけで判断できる僕の耳が、そう言っている。

今の車は、広田のだ。

ヤツがウチに用があるわけがない。とすると、ヤツの車がここに止まる理由は、ひとつだ。