「デンさん、これひょっとして、アヴェマリア?」

音楽に疎い僕が訊ねながら奥の和室に入ると、ちょうど執筆活動中だったらしいデンさんはガリガリと頭を掻きつつ答えた。

「おう。よく解かったな。ま、いいだろ?たまにはクラシックってのも」

「まあね」

彼は執筆中、よく気分に合わせて音楽をかける。

ジャズやなつメロ、ポップやロック、音楽ならノンジャンルだ。

今日は、クラシックの気分らしい。ちなみに彼が書いている小説は時代物なのだけど……そのギャップは突っ込んじゃいけない。



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「その感情に支配されてさ、もう頭ン中がパニックになっちまうことって、あるか?」

「んー、極端ではないけど、思い悩んだくらいはあるね」

真乃が投げた石は連続して水面を跳ね、波紋は、七つ出来た。さすがに上手い。

「俺が抱えてんの、そういう悩みなんだよ」



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